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『バー・リバーサイド』様々なカクテルとマスターの名言 大人の為の会話劇小説

二子玉川の落ち着いたバーで一杯

ちょっと感傷的になったり、気持ちに整理がつかない時…ちょうどいい距離感で優しく話を聞いてくれ、おいしいお酒を作ってくれるバーでマスターとおしゃべり、なんて出来たら良いですよね。
今回紹介するのは、吉村喜彦さんによる小説『バー・リバーサイド』です。

様々なカクテルと沁みる名言 大人の会話劇小説『バー・リバーサイド』

舞台は東京・二子玉川にある席数わずか7席の小さなバー・リバーサイド。
静かな空気感の落ち着いたお店で、マスターの川原草太とスタッフの新垣琉平が働いています。
彼らと6人の個性的な常連客が繰り広げるのは、それぞれの世界で様々な境遇を経た者たちならではの印象的な会話劇
物語は5つの短編で構成されていて、ページ数も多くないので、あっという間に読み終えてしまいます。
全ての短編にそれぞれの会話にちなんだお酒や料理が登場するのですが、作者の吉村さんは元サントリーの宣伝部勤務というだけあって、その描写が独特なのです。

様々なカクテルと沁みる名言 大人の会話劇小説『バー・リバーサイド』

沖縄の独特な埋葬に使われる「花酒」をつかったカクテル

たとえば、うどん店で働く客・井上が語るのは、あの世とこの世に関するちょっとスピリチュアルな話題。
スタッフ・琉平が出身地である沖縄特有の死者の埋葬方法を語り始めます。

沖縄には洞窟が多く、昔はその中に亡くなった人を葬って、亡くなって七年後に親戚がその骨一本一本を丁寧に泡盛で洗ったそう。
使う泡盛はできれば、与那国島で作られる60度の泡盛・花酒がいいとされていたといいます。

井上が静かに相槌を打ちながら琉平の話を聞いていると、突然マスターが目を輝かせていいます。

「あ、いいカクテル、思いついた!」

シェイカーに氷を入れ、花酒をとろりと注ぎ、
シャカシャカ、シャカシャカッ—-
マスターがシェイカーをかなり激しく振り続ける。
シェイクの決め手は
氷を微妙に溶かし、酒に水を入れることだ。
水と空気によって、酒が開かれ、香りがたち、液体の味はまろやかになる。
円錐形のグラスに、できたかカクテルをやさしく注ぎ入れた。
シェイクのおかげで、液体の色は、ほんのり霧のかかったような乳白色。
グラスには、きめ細かい霜がびっしりとついている。
マスターは表面張力ぎりぎりまでグラスに液体を注いだ。
グラスの縁の液体が、ぷっくり膨れてエロチックだ。

「マスター。これ、何ちゅうカクテルなん?」
花酒シェケラート。花酒をシェイクしただけ。」

花酒シェケラート、こんな素敵な文章で描かれると味がとっても気になりますよね。
他にも、紹興酒と烏龍茶で作るドラゴン・ウォーター、桃のカクテル・ベリーニ、ジョニ赤のハイボール…様々なお酒が個性豊かに登場します。

様々なカクテルと沁みる名言 大人の会話劇小説『バー・リバーサイド』

心に響くマスターの名言の数々

フリーライター・森の話題は、少しディープな人間関係の悩み。
落ち込み気味の森にマスターが差し出すのは、ダーティ・マティーニです。
こんな言葉をかけます。

「マティーニは時を重ねるごとに、どんどんドライになっていきました。でも私は、影と湿り気のある方が好きなんです。だから、森さんにはこのカクテル。
切れ味が過ぎると、その鋭い刃で、自分が怪我をすることになります。加減が難しい。少し澱(おり)を残しておいた方がいい。そう。自分の『いい加減』を見つけることがたいせつです」

こんな風に、マスターの心に響く名言が飛び出しまくるのも、この小説の魅力の一つ。
その言葉の数々は決して説教臭かったり押し付けがましいことはなく、常連客達の心に寄り添おうとしているようで、説得力があります。

様々なカクテルと沁みる名言 大人の会話劇小説『バー・リバーサイド』

おいしいカクテルや料理と共に、人情味あふれるマスターの言葉たちが、お客さんの悩み・葛藤・迷いをそっと包んでくれるバー・リバーサイド。
読んでいると、常連客達の心や体のどこかに詰まっていた何かがすっと押し流されていくのを見守っているような感覚になります。
帰路につく頃に、どこかすっきりとした表情になっている彼らの顔が浮かぶよう。
春や初夏の涼しい夜、お酒を片手に是非読んでいただきたい一冊です。

Written by にゃも

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