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笑っておいしい!「落語メシ」のすすめ

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江戸時代から続いている大衆芸能・落語。近年は若いお客さんも増えて、落語は一大ブームになっています。今回の内容は、そんな落語の……と、その前に、ちょいと小噺から入りましょうかねぇ。

おいしい落語

暑い盛り、クマさんが道端で油を売っていると、そこに友だちの八つぁんが通りかかりました。
クマ  「おーい、八つぁん。どこ行くんだい?」
八つぁん「おークマさんじゃないか。これから一杯やろうと思ってよ。」
クマ  「いいねぇ~。俺も連れっておくれよ。ところで今日はどんな肴で一杯やるの?」
八つぁん「落語だよ。」
クマ  「え?酒の肴が落語?刺身じゃねえの?」
八つぁん「そんなもの食えるか!俺は金がねぇんだから、落語家の噺を聴きながら一杯やるっていうってんだよ。」
クマ  「落語ってあれだろ、年寄りが日曜の夕方にテレビで見るやつだろ?」
八つぁん「そうそう。演じてるのも年寄りだけど。……ってお前ェは落語を知らないからそんなこと言えるんだよ。名人級の話になったら、話だけでうまいもの食ってる気になるよ。」
クマ  「……しかし年寄り同士笑わせて、何が楽しいんだい?落語で腹一杯になるのかねぇ。」

この八つぁん、お金をかけずに美味しい酒の肴を求めた結果、「最高の肴が落語だった」と気づくあたり、エッジの効いた粋な話なのですが……、少々難しいでしょうか?
ご心配なく。今回は、きっと誰でも魅了される、落語と食の世界にご案内します。

そもそも、落語って何?

落語とは、江戸時代に誕生した芸能のひとつ。噺家(落語家)さんがステージの上でおしゃべりする芸能で、噺家の「話芸」と聴衆の「イマジネーション」だけで成り立っています。これは豆知識ですが、今、芸人さんたちがよく使う「オチ」という言葉は、落語から来ているのです。

落語に出てくるストーリーは難しいし、江戸弁の言い回しは聞き取れない!……そんな人には、江戸の食文化を扱った演目から、落語の世界へ入っていくことをおすすめします。
落語は、扇子ひとつと身振りだけで食のシーンを表現してしまう、奥深い芸能。芸達者な噺家さんの手にかかると、まるで本物の食べ物がそこにあって、うまそうに食べているかのようです。そのパフォーマンスには、きっと初めて落語を体験する人も惹き込まれてしまうはずです。
誰かがおいしそうに食べている姿を見ると、なんだかお腹が空いてきませんか?……というわけで最近は、江戸の食にまつわる演目を見た後、実際に登場した料理を食べられるツアーも人気なんですよ。

まずは、志ん朝の「酢豆腐」をご賞味あれ

早速ご紹介したい演目は「酢豆腐」。とくに、ミスター落語こと、三代目古今亭志ん朝(1938~2001年)演じる「酢豆腐」は見ものです。

志ん朝は、どのような演目でもこなせる、オールラウンドプレーヤー。江戸の文化にも造詣が深かった噺家です。志ん朝の落語は、言ってみれば「美しい落語」。あまりにもその芸が卓越していて、緻密に計算されているので、誰もが志ん朝の高座に“理想の江戸っ子像”を見てしまうほどです。

おすすめ落語メシ「酢豆腐」のあらまし

さてさて、気になる「酢豆腐」とはどういうお話なのでしょうか?

ある時、気の合う町内の若衆が集まって、「暑気払いに一杯引っ掛けよう」ということになりました。ところが集まったのは大工見習いや今でいうフリーターのような、お金のない若者たち。酒はなんとか見つけてきましたが、肝心の酒の肴がない。いざ酒の肴について相談し始めると、みんな自分の好物ばかりを主張して、まとまりません。

そんなところに、頼りになる兄貴分が登場しました。

「台所の糠味噌の樽をかき回してみな。忘れちまったような古漬けが1本や2本あるはずだよ。そのままだと臭っていけねぇし、塩っ辛くて食べられるもんじゃない。それを一旦水に泳がして絞り、削りぶしと醤油をまぶして食べるのはどうだい?」

おいしい落語

兄貴分の提案に、町内の若衆は感心しきり。
しかし、若衆たちが「ついでにその古漬けを取り出してくれ」と兄貴分にせがむと、あっさり断られました。暑い盛り、臭い糠味噌に手を突っ込みたい人などいるはずもありません。

そこに、たまたま通り掛かった建具屋の半ちゃん
若衆たちは揃って「この、色男、女殺し、色魔!町内の女衆にえらく評判が良いよ」などと、半ちゃんをありったけ褒めちぎりました。

すっかり気を良くした半ちゃん。
「俺も江戸っ子。頼まれれば嫌といったためしはねえ」と、言ったまでは良かったものの、若衆たちに「糠味噌から古漬けを出すように」とせがまれる羽目に……。
「手を突っ込むのは勘弁してくれ」と、断る半ちゃんですが、なかなか引き下がらない若衆たちに「酒の肴を買ってくれ」と粘られ、まんまと金を渡してしまいます。

次に通りかかったのが、偏屈で町の変わり者、嫌われ者で有名な伊勢屋の若旦那
若衆たちはさらに悪乗りし「腐らせてしまった豆腐を、伊勢屋の若旦那に食わせてしまおう」と企みます。さっそく「町内の女衆にモテるねえ」と若旦那を褒めちぎりました。若衆たちは、「若旦那がモテるのは、物知りだから」と、さらに持ち上げます。

そこで、若衆たちは本題へ。
「食べ方がわからなくて困っているものがある。ここにいる者たちには価値がわからない。食べ方を教えてほしい」と、せっついたのです。そして若衆たちは、腐らせてしまった豆腐を差し出しました。差し出した豆腐は色が黄色く、毛がボーッと生え、とてつもない悪臭を放っています。

「若旦那、私たちにどうか食べ方を教えてください。」

若旦那は、逃げ切れずに持参した匙で一口食します。
「この鼻にツンっときて目がピリピリっと、この香りがまたオツだねぇ~」と、扇子で鼻もとの悪臭を払い、臭いにむせながらも、精一杯強がりました。

それを見た若衆たちは大盛り上がり。
若衆たち「食ったよぉー!大したもんだよ、さすが若旦那。ところでこれはなんという食べ物です?」
若旦那 「これは、酢豆腐です。」
若衆たち「うまい名前をつけたねぇ~。若旦那、もっと召し上がんなさい。」
若旦那 「いいえ、酢豆腐は一口に限ります。」

おいしい落語

いかがでしたか? この「酢豆腐」で一番のクライマックスといえば、若衆たちがウソをついて腐った豆腐を食べさせると、ツウぶった伊勢屋の若旦那が、それを食すシーン。その様子がとにかくおもしろいのです!
ちなみに、この伊勢屋の若旦那の様子を、ツウでも野暮でもない、中途半端なツウ=半可通(はんかつう)といいます。戯作者の山東京伝(1761~1816)が多用し、当時の流行語にもなりました。

三代目古今亭志ん朝のバージョンなら、口調が滑らかで、江戸弁が聴き取りやすく、話からシーンを想像しやすいので、「酢豆腐」を初めて聴く方にもおすすめします。
「酢豆腐」を口に入れた瞬間にむせる様子はいつ見てもおもしろく、映像に慣れている私たち世代にも親しみやすいパフォーマンスです。三代目古今亭志ん朝は、落語の歴史の中で最も映像を残した落語家としても有名なんですよ。

おいしい落語はまだまだ他にも!

「酢豆腐」以外にも、食にまつわる演目はたくさんあります。
ポピュラーなのは、「目黒のさんま」。有名な「目黒のさんま祭り」は、この話にちなんで催されています。五代目古今亭志ん生も、この演目を十八番のひとつとしていました。

おいしい落語

秋や冬には、あたたかい食べ物が登場する「二番煎じ」「時そば」がおすすめです。

「二番煎じ」は日本酒好きや鍋好きにはたまらない演目。旦那衆が鍋を囲み、猪の肉やネギを頬張る描写がふんだんに登場します。この演目はぜひ映像で、それも、三代目古今亭志ん朝のバージョンを見ることをおすすめします。

「時そば」は、食にまつわる落語の代表ともいえる演目です。そばの勘定をごまかそうと奮闘する様子がとにかくおもしろく、そばをすする落語家のパフォーマンスなど、注目どころが満載です。最近の落語家では、柳家喬太郎(1963~)のバージョンをおすすめします。なぜ柳家喬太郎なのか?それは、この落語家のマクラ(本編が始まる前のお話)が絶品だからです。柳家喬太郎の賛美するコロッケそばの話は……と、ネタバレはダメですね。続きはぜひご自身で聴いてみてください。

おいしい落語

落語をはじめて聴くときには、食にまつわる演目を探してみると、落語家のパフォーマンスを手がかりに、たっぷり落語を楽しむことができます。
ひとつの演目に興味を持ったら、違う落語家のバージョンも紐解いてみてください。新しい発見がありますよ。

いま世間では、イケメン落語、ワンコイン落語、女性の落語家などが登場しています。通勤や通学の時についヘッドフォンで落語を聴いてしまった皆さん!あなたたちはもう達者な耳をお持ちなのですから、今度は近場の寄席へぜひ出かけてみてください。

おいしい落語

Written by えむえむ

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