クリスマスのワイン、ターキー、ケーキ…の前に聴くべき70年代ロックの名曲

クリスマスっていいことばかり。…本当にそう?

皆さんもう今年のクリスマスの過ごし方は決められただろうか?
恋人と過ごす方は、そろそろレストランを予約しないと、人気店は次から次に埋まってしまう頃かも。ワインやシャンパンを飲むのもよし、ターキーピザを買って帰ってクリスマスツリーイルミネーションで飾り付けたお家で過ごすのもよし。もちろんケーキプレゼントだって忘れずに。
今年もロマンチックな夜になること間違いなし…クリスマスってなんて素敵な一日なんだろう…そう思っているあなた、楽しみが膨らみすぎて、油断してはいないだろうか?忘れてはいけない。あなたがワインやターキーを食べて幸せな気分になっている間、世の中には不幸なクリスマスを送る人だっている、ということを。

強盗に襲われるまさかの「バッド・クリスマス」!

60~70年代のロックの王道、キンクス/Kinksの、ファーザークリスマス(Father Christmas)という曲がある。この曲の特徴は、ボーカル(主人公)の経験談が一つのストーリーとして、歌の中で語られることだ。
「ファーザー・クリスマス」とは、デパートなどにいるサンタの格好をしたおじさんのこと。日本でもデパートで、子どもたちにプレゼントを配っているおじさんを見かけるが、この曲は主人公がデパートで「ファーザー・クリスマス」となった時に起きた、ある事件の話が語られている。
クリスマスらしい綺麗な鈴の音の前奏で始まる、主人公の不幸なクリスマス・ソングがこちら。

ガキの頃、俺はサンタクロースを信じていた
それが親父だって知ってたけどね
クリスマスになったら靴下を吊るして
プレゼントを開けて喜んだものさ

だが前回、俺がサンタの格好をしていた時
俺はデパートの外に立っていて
子どもの強盗がやってきて、俺を襲ったんだ
そして、俺のトナカイを床に叩きつけたんだ

サンタの格好をして子どもを喜ばせるつもりが、子どもの強盗に襲われてしまうなんて、物騒すぎて、日本ではなかなか考えられない。主人公自身の幼少期の体験より、ずいぶん不幸で過激なクリスマスである。私たちだって、恋人と幸せなクリスマスを過ごすことばかりを考えて気を抜いていると、案外こういう目にあうことだってあるかもしれない。

ところでこの歌に登場する強盗というのが、子どもとはいえ相当怖いのだ。

おいサンタ、いくらか金をよこせ
そんなおもちゃでごまかせると思うなよ
もし金をやらないっていうんなら、ただじゃすまないぜ
イライラさせるな!俺はお前のパン代がもらえればいいんだ
おもちゃなんか、ぜんぶ金持ちのガキにくれてやればいいんだよ

俺の弟にスティーブ・オースティン(※米国のプロレスラー)のコスチュームなんかやるな
妹に可愛いぬいぐるみなんかやるな
俺たちはジグソーパズルやゲームの中のお金なんか望んでないんだよ
俺たちが欲しいのは、おもちゃじゃない
本物の金なんだ

まだ子どもだというのに、おもちゃなんかいらない!金をよこせ!
と、堂々と言い張っているのである。
こんな子どもの強盗に襲われては、せっかくのクリスマス、美味しいものを食べる元気すらなくなってしまいそうだ。子どもたちに夢を与えるのがクリスマスのはずなのに…

だが、視点を変えてみると、私たちが呑気に幸せなクリスマスを妄想している間に、実はこの子どもたちは必死の想いで、クリスマスを生き延びようとしていることがわかる。

ワインを飲む前、ターキーをかじる前に、貧しい子どもたちのことを考えてみよう

子どもの強盗の意外な一面があかされるのは、曲の中盤を過ぎてからのことである。

おいサンタ、いくらか金をよこせ
そんなおもちゃでごまかせると思うなよ

でも、俺の親父には仕事をあげて欲しいんだ
親父はたくさんの人を喰わせていかなきゃいけない
だがそれが無理だっていうなら、俺はマシンガンを持つぜ
そしたらこの通りのガキを全員震え上がらせることができるんだ

おいサンタ、いくらか金をよこせ!
そんなおもちゃでごまかせると思うなよ!
もし金をやらないっていうんなら、ただじゃすまないぜ
イライラさせるな!俺はお前のパン代がもらえればいいんだ
おもちゃなんか、ぜんぶ金持ちのガキにくれてやればいいんだよ

わかりいただけただろうか?子どもたちは決して、ひねくれているのではない。
明日がどうなるかわからない子どもたちにとっては、
おもちゃは「生きていくのに必要ないもの」なのである。
お金がない父親に対して、子どもはおもちゃを欲しがったりするだろうか?
むしろ、それこそひねくれ者だ。
お金がない父親に対して、なんとか仕事を与えてあげようという切実な想いと、
プレゼントをくれる余裕があるんだったら、現金をくれよ!
おもちゃなんか食べられないよ!誰のことも助けてあげられないよ!
という率直な想いを持てるのは、素直な子どもだからである。

そしてKinksは最後にこう言って、歌を締めくくる。

メリー・クリスマス
楽しい楽しい夜を過ごせよ
でも、貧しい子どもたちがいることを忘れないで
あなたがワインを飲んでいる今、その間にもね

…ワインを飲みながら、貧しい子どもたちのことを考えられる人がどれだけいるだろうか?
もちろん、だからといってワインを飲むのを自粛したり、子どもにプレゼントをあげるのをやめたりする必要はないだろう。
だが、ワインを飲めるのも、ケーキを食べられるのも、恋人と過ごせるのも、子どもにプレゼントをあげられるのも、あなたが今健康で、働けていて、お金を持っているから。それがこの世でどんなに素晴らしいことか、実感して、感謝して、じゅうぶんにクリスマスを楽しんでほしいと私は思う。そうすれば、ワインの味もケーキの味もターキーの味も、より一層美味しいものになるだろう。
毎年訪れるクリスマスだからこそ、忘れてはいけないことがある。今年のクリスマスは、家族と、友人と、恋人と、そのことを今一度確認してみてはいかがだろうか?
きっと、素晴らしい夜になるはずです。

Written by ヤマダリョウ

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