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限りなく透明に近いブルーに見る若者と酒文化 閉塞された世の中を変えるには?

その場だけ、その日だけ盛り上がっても、自分も世界も一向に変わらない

レイ子が青い顔で立ち上がり、今何時なの、何時?と誰にでもなく呟きよろけながらカウンターに進み、ケイの手からウイスキーを取り、喉に流し込むとまた激しく咳き込んだ
バッカねえレイ子、あんたはおとなしく寝てなよ。
そう言ってケイはウイスキーを乱暴に奪い返し、瓶の縁についていたレイ子の唾液を手で拭ってまた少し飲む。

この一節を読むとわかるが、レイ子は青い顔でよろけるほど酩酊しているにも関わらずウイスキーを飲み、結局は激しく咳き込んでしまっている。レイ子はお酒を楽しもうとはしていない。
まるで自分を追い込むように、ウイスキーを喉に流し込んでいる。
居酒屋で一気飲みコールをして大勢で馬鹿騒ぎしたり、誰かの家に集まり焼酎瓶をシェアして飲んだりするのもお酒の楽しみ方なのかもしれないが、お酒を楽しまない、というお酒の飲み方だってあるのだ。
お酒を限界まで飲み、倒れるぐらいになると、自分を保つのが難しくなる。
だが、そういう境地に辿り着くと、見たこともないような自分を知り、新しい自分と出会うことができる。
その場だけを無理に楽しんだり、盛り上がろうとしたりする必要はなく、むしろ何かを求めて限界までもがき続けることの方が、閉塞された時代、格差だけがあり変化のない現代を生きる若者にとっては、重要なことなのではないだろうか。

限りなく透明に近いブルーに見る若者と酒文化 閉塞された世の中を変えるには?

この小説のラストシーン、作者の村上龍本人であろうと思われる主人公のリュウは、夜明け前の一瞬だけ光る空がポケットに入っていたブランデーのグラスの破片に映り込むのを見て、自らを変え、現状を変えるための最後の答えへと辿り着く。

血を縁に残したガラスの破片は夜明けの空気に染まりながら透明に近い。
限りなく透明に近いブルーだ。僕は立ち上がり、自分のアパートへ向かって歩きながら、このガラスみたいになりたいと思った。
そして自分でこのなだらかな白い起伏を映してみたいと思った。
僕自身に映った優しい起伏を他の人々にも見せたいと思った。

この「限りなく透明に近いブルー」を書いて実際に村上龍は24歳にして芥川賞をとり、現実社会を大きく変えてみせた。
楽しむことをあえて捨て、自分を限界まで追い込み何かを求め続けた先にこそ、こういう風になりたい、自分はこうありたい、と思わせてくれて、自分と世界を変えてくれる新しい何かに出会えるのだろう。
若者の文化が無くなった今でも、お酒という文化はまだ残されている。
お酒は自分の目標や到達点を見つけるための入り口であり、手段であり、文化だ。ロックとドラッグとファックを手段にして、村上龍は小説と出会った。
私たちは何と出会えるだろうか
そして、その出会いによっていかにして現状を変えられるだろうか
自分や世界を変えよう、そういうはっきりとした意志の強さを、今、現代の若者は試されているのかもしれない。

Written by ヤマダリョウ

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