タフな男のワイルドな料理はホット・ケーキ de ハードボイルド!
ハードボイルドでタフな男が愛するホット・ケーキはコーラが決め手
私は運動会のパン食い競争で、いちごジャムをポケットに忍ばせていたことがある。スタートと同時にパンめがけて全力疾走。おもむろにジャム瓶を取り出し、吊ってあるパンにベタベタ。…だって、早くゴールするよりも、あのパンをできるだけ美味しく食べたほうが幸せじゃないか!
そんな生まれながらの超ひねくれ者ならきっとわかってくれるハズ…ってのがこの「ハードボイルド・ホット・ケーキ」。村上春樹のあの有名な処女作、『風の歌を聴け』の登場人物「鼠」は、ハードボイルドを地でいくタフな男だ。
『風の歌を聴け』 村上 春樹(講談社文庫)
鼠の好物は焼きたてのホット・ケーキである。彼はそれを深い皿に何枚か重ね、ナイフできちんと4つに切り、その上にコカ・コーラを1瓶注ぎかける。
コ…コカ・コーラを1瓶注ぎかける?!
だって、アッツアツのホット・ケーキに合う美味しいものといえば相場は決まっている。はちみつ、シロップ、溶かしたバター…
でもそれってさ、「美味しさ」で競った場合の話だろ?鼠が求めているのは美味しさなんかじゃない。ホット・ケーキだろうがなんだろうが、なによりも重要なのは「ワイルドな見た目」と「効率の良さ」なのだ。
この食い物のすぐれた点は、
食事と飲み物が一体化していることだ。
作中で鼠は“5月のやわらかな日ざしの下にテーブルを持ち出して“、その奇妙な食物「焼きたてホット・ケーキのコーラ1瓶ぶっかけ」を頬張るのだ。なんてワイルドな男で、そしてなんてハードボイルドな料理だろう。(というかもはや、料理と呼んでいいのだろうか…?)
「生まれてから今まで自動販売機のボタンはぜんぶ頭突きで押してきた」
「レンタルショップでDVDを借りて、店を出て行くときにそのまま返却BOXに借りたものを全部ブチ込む」
など、数々のハードボイルド伝説を打ち立ててきた筆者は、もちろんこの料理も実際に作ってみることにした。熱々のホット・ケーキにコカ・コーラを1瓶注ぎかけるなんて、ハードボイルド界では初心者レベル、むしろ「え?まだやったことなかったの?」というぐらいの難易度である。
まずは四つに切る。
だって”「ナイフできちんと四つに切り…」”って説明があったからね。あくまで原作に忠実に。大切なのは、必ず「深い皿」を準備すること。コーラを一瓶注ぎきれないからね。
深い皿に乗せたら…
さあいくぞ!?やるぞ!?いいのか本当に?!瓶のコーラとか手に入れるの結構苦労したぞ!?このまま飲まなくていいのか本当に!やめるなら今だぞ!!
いけええええええー!!
いけええええーー!!!泡が立つぐらいドバーッと!ジュワーーって音がするほどかけると気持ちがいいぞ!ホット・ケーキが一つ台無しになったと思うと気が滅入るぞ!!
※決して躊躇しないこと。
興奮冷めやらぬうちに、一気に食すべし。
抵抗する体にムチ打って、とにかく一気に食すべし。無理やり口に押し込んで、顔をしかめて食べてみて。肉汁ならぬ、「コーラ汁」が、ふくらんだホット・ケーキから滲むから…
そして冷たい涙が頬をつたうから…
完食。
見事に完食しました!味はなんていうか、クソマズかったです!
こちらが食後の容器の写真。
どうだい?こうしてみると、まるで醤油ラーメンを食べたあとにでも見えてくるからコイツは摩訶不思議だ。「ハードボイルド・ホット・ケーキ」は、そのワイルドな見た目や食べ方だけではなく、食後、容器に溜まったコーラですら、ささやかな哀愁を与えてくれるのだ。
…いかがだっただろうか?
あちこちから笑い声、怒声、ヤジがとんできそうだが、筆者は誰よりもこのホット・ケーキを愛している。なぜかって?答えは簡単。”食事と飲み物が一体化している”からさ。ハードボイルドであることに、理由なんていらないんだよ。
村上春樹は処女作であるこの「風の歌を聴け」のハードボイルドな世界観の中で、こう言っている。
僕は・君たちが・すきだ。
愛があればいいのさ。みんな、短い人生でせめて一度ぐらいは、ハードボイルドに生きてみようぜ。
でもね、間違ってもこのホット・ケーキ、人に作ってあげるのは やめた方がいいですよ…。
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『風の歌を聴け』
村上 春樹(講談社文庫)
村上春樹のデビュー作
1970年夏、あの日の風は、ものうく、ほろ苦く通りすぎていった。僕たちの夢は、もう戻りはしない――。群像新人賞を受賞したデビュー作
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