ロサンゼルスの夜食はキャットフード de ハードボイルド!
”ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男”が作ったハードボイルド映画
「ロング・グッドバイ」というエリオット・グールド主演のハード・ボイルド探偵の原点的な映画がある。監督のロバート・アルトマンは「ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男」と言われている。
風変わりな嫌われ者の方が、私は好きだ。いつだって、みんなと同じことを嫌う「カリスマ」が世界を変えてきたし、そういう男こそハード・ボイルドじゃないか。
この映画の音楽はハリー・ポッターとスター・ウォーズのあのテーマを作曲したジョン・ウイリアムズ。オープニングのけだるいBGMとともに、深夜のロサンゼルス、ネオンの街並み、美しいハイウェイが映ると、もう気分は自由気ままな私立探偵。
猫と女とハードボイルドとキャットフード
この映画で紹介したいのは「キャットフード」、である。
「食×映画」だとか「みなさまの『自己満食』を応援する」だとかなんだとか言いながら、キャットフード。食べてもないのに、どうやってヤミつきになるか分かるんだよ!と思われそうだが、
想像するんだよ。
それがハード・ボイルドの、ハード・ボイルドたる所以なのである(食べるのはさすがに無理です)。
主人公の私立探偵・フィリップ・マーロウはネコを飼っている。深夜3時、飼いネコに「ねえねえ、ご飯作ってよ!」とムリヤリ起こされるところから、この物語は始まる。
マーロウはべッドに寝てはいるが、靴は履いたまま、スーツのまま着替えもせずに髪はボサボサ。眠たい目をこすりながらキッチンに入り、キャットフードの入った缶を漁るも、ちょうどきらしてしまっていることに気づく。そこで仕方なく、卵とヨーグルトと調味料を皿にかき混ぜて、その場しのぎのご飯を作ってあげる。(こうやって結構ごまかしちゃうよね)だけど、美食家のネコは知らんぷり。こんなの食えるか!とでも言わんばかりに、皿を床へヒックリ返してすっかり拗ねてしまう。
しぶしぶネクタイを締め直し、近くのスーパーへと向かうマーロウ。キャットフードを求め歩く、深夜のロサンゼルスが美しい。まるで街じゅうのネオンが監督ロバート・アルトマンに味方しているかのよう。
…深夜のコンビニへの道中ってわくわくするけど、コンビニまでの道がこんなに美しかったらなあ…。
マーロウは深夜のスーパーマーケットを練り歩き、キャットフードの缶詰がある陳列棚まで歩くが、愛猫のお気に入り、「カレー印のキャットフード」だけがない。すかさず通りがかった店員に声を飛ばす。
「ヘイ!カレー印のキャットフードはないのかい?」
「…ありませんよ、こっちはどうです?こっちだってたいして変わらない」
「ダメだよそれじゃあ、あんたネコ飼ったことないだろ?」
「うん、ないよ、だって女のほうがいいもん。」
おお、その通りだな…、と言い負かされるマーロウの仕草がなんとも愉快。
結局いつもとは違うキャットフードを買って帰ったマーロウは、ネコにばれないように「カレー印のキャットフード」の空き缶に中身だけを移し替える。ほーらお前の大好物の、「カレー印のキャットフード」だぞ!とネコに差し出すも、匂いを嗅いだ瞬間一口も食べることなくネコに逃げられてしまう。え、そんなにカレー印のキャットフードがよかったの…?
ネコを飼ったことのある人ならわかるけど、ネコってこだわり強いし、なんせプライドが高いからね…でもヨーグルトと生卵と調味料だけの料理を食べないのはわかるけど、他のキャットフードも一口も食べないなんて、この猫、なんともハード・ボイルドを貫いているじゃないか。
原作では、このハード・ボイルド・ネコの登場はなかった。映画界の嫌われ者、ロバート・アルトマン監督のハード・ボイルドなスピリットが、きっとネコにまで乗り移ったに違いない。(もしかすると、監督の分身なのかも?)
それにしてもカレー印のキャットフード、きっとネコだけが知る特別なヤミつきフードなのだろう。
その他の記事もぜひご覧ください!